「 韓国の戦いの本質と、日本の国益 」
『週刊新潮』 2013年12月19日号
日本ルネッサンス 第587号
金正恩第1書記の後見人だった張成沢国防委員会・副委員長が失脚し、北朝鮮有事がさらに近づいた。安倍政権が力を入れる拉致問題の解決が遠のく可能性も、さらなる権力集中を進める金正恩第1書記が核実験など強硬策に踏み切る可能性もある。
韓国にも深刻かつ直接的な影響が及んでいると、「統一日報」論説顧問の洪ヒョン氏が警告する。
「正恩第1書記は、禍根を残さないため張成沢の『物理的除去』も考えているでしょう。そもそも、金王朝の『唯一権力体系』は金日成の血の粛清によって確立されました。2代目の金正日は叔父や継母、異母兄弟たちまで徹底して粛清し権力を確立しました。そして金正日の息子たちの中で最も凶暴な三男が3代目を継承したのです」
だが、いくら権力を集中させても、恐怖政治と粛清では国家運営は安定しない。北朝鮮有事がさらに近づいたと考えざるを得ないとともに、正恩氏は、祖父と父の遺志である韓国併合も目指していると見るべきだろう。韓国内で現在進行中の異常事態は、そうした北朝鮮の韓国併合に向けた死に物狂いの闘いだと洪氏は強調する。
朴槿恵大統領の数々の反日的言動に嫌気のさしている日本人には信じ難いことだが、彼女はいま4つの政策を掲げて左翼陣営と対決中だ。①韓米連合軍司令部解体の無期延期、②全教組の非合法化、③歴史教科書修正、④統合進歩党(統進党)解散である。
①については、北朝鮮有事の際には米韓合同軍が対処するが、現在指揮権は米軍にある。だが、盧武鉉元大統領は2012年までの指揮権返還を求め、有事の際に米軍の果たす役割を後退させようとした。
北朝鮮有利の展開につながる同取り決めに危機を感じた李明博前大統領が、返還期限を15年まで延長した。朴大統領は、15年以降も米軍に統合指揮をとって貰うべく要請中だ。
目標は国情院の解体
②は、日本の日教組よりもさらに激しい左翼体質の韓国の全国教職員労働組合の非合法化である。全教組は大韓民国の憲法と大韓民国の誕生を否定して韓国を貶める一方、北朝鮮を擁護する反国家的歴史観を生徒たちに教えることで悪名高い。
③は、朴正熙元大統領を「悪魔」と表現し、金日成の抗日闘争を英雄視する教科書を改めようとするものだ。
④の統進党は現在裁判を受けている李石基議員の属する政党である。李石基氏は地下革命組織の一員で、南北朝鮮有事の際に、軍の弾薬庫を奇襲して武器を奪い、どの政府機関を占拠すべきかなど、具体的な革命計画を立てていたことが判明し、9月5日、逮捕された。李氏が所属する統進党の非合法化に朴大統領は手をつけたわけだ。
一連の意思を示した朴大統領を、野党第一党の民主党が激しく攻撃しているのが現状だ。まず、彼らは先の大統領選挙は国家情報院(国情院)の政治介入があったために無効だとして、朴氏の大統領としての資格に疑問を投げかける。
ちなみに国情院の介入というのは、昨年12月の大統領選挙の前後、2007年に行われた盧武鉉元大統領と金正日総書記の会談の議事録を国情院が公開したことを指している。民主党の盧元大統領が金正日に追従して、韓国を丸々北朝鮮に引き渡すかのような発言に終始していたことが議事録で判明し、当時、対立するセヌリ党の候補者だった朴槿恵氏への応援となったと見られている。
民主党は金大中、盧武鉉両氏の路線を受け継ぐ政党で、300議席中127議席に上る。内、21名が反共法及び国家保安法違反で逮捕された前科を持つ。彼らはバリバリの左翼政治家なのだ。金大中氏や盧武鉉氏の政策に見られるように、彼らは韓国よりも北朝鮮を評価し、北朝鮮による韓国併合を促進する勢力と言ってよいだろう。彼らの当面の目標は国情院の解体だと洪氏は分析する。
「韓国で唯一残されたまともな保守の組織が国情院です。12月3日、国情院改革特別委員会がつくられました。委員は与野党同数で、なんと委員長を民主党が取りました。彼らは国情院及び韓国軍サイバー司令部への締めつけを強化する方針です。両組織の職員、つまり公務員の政治関与に関して罰則を強化し、内部告発を促進するつもりです」
公務員の政治関与の排除も内部告発者の保護も、民主主義国家においては当然、守らなければならないルールだ。しかし、民主党の主張を額面どおりに受けとめるわけにはいかない。先述のように同党議員の内、実に21名が逮捕歴のある左翼運動の闘士で、北朝鮮シンパなのだ。彼らの狙いが韓国の対北朝鮮抑止力の弱体化にあるのは明らかだ。
日米韓の協力を
韓国政府中枢がどれほど北朝鮮勢力に浸透されているかは、司法の例からも見てとれる。1973年4月、金日成は対南工作担当要員に、韓国で反政府デモに走る学生の中から頭のよい者たちを選んで勉強させよと指示した。資金援助をして大学で法律を学ばせ、判事、検察官、弁護士などにして韓国の内側から体制転覆を目指すよう指示したのだ。その結果が、理解不能でおかしい司法判断が次から次へと下される韓国司法界の左傾化だと分析されている。
このような中で、国情院と軍だけが、北朝鮮勢力と戦っているのが現状だと、洪氏は指摘する。
「問題は、朴大統領やセヌリ党がそこまで認識しているかです。彼らが情勢の厳しさを知っていれば、過半数の議席を有する政党として、国情院改革の委員長ポストを民主党に渡すことなどなかったでしょう」
朝鮮日報系列の『月刊朝鮮』元編集長、趙甲済氏は、国会は朴大統領にとって危険極まる所だと警告する。
「国家反逆罪で逮捕された前科を持つ者が議員として自由に活動しているのが国会です。彼らは朴大統領を消し去りたいと考えるでしょう。彼女の父、朴正熙大統領は部下に命を奪われました。権力者はしばしば近くにいる人物に殺害されます。そんな危険を警戒しなければならない程、いま韓国政治は緊迫しています」
洪氏も語った。
「張成沢は油断して金正恩に粛清されました。朴大統領もセヌリ党も、いま韓国が断崖絶壁上にあること、ここで北朝鮮勢力に主導権を奪われることは韓国を失うことにつながりかねないことを認識すべきです」
洪氏は、朴大統領は油断と楽観主義を排して、いまこそ日米両国の強力な支えを求めるべきだと強調する。日本にとってもそれは合理的な選択である。日本の国益のためには、北朝鮮に併呑された韓国や、中国支配下の韓国よりも、北朝鮮を併合して中国と距離を置く韓国のほうがずっとよい。感情よりも、日韓両国の国益を考えて、日米韓の協力を進める時だと肝に銘じたい。